
「実家の農地を相続したが、誰も耕す人がいない」
「固定資産税だけ払い続けている負動産を手放したい」
現在、日本の農業構造の変化に伴い、こうした悩みを抱える所有者が急増しています。しかし、いざ売ろうとすると「買い手が見つからない」「農業委員会の許可が下りない」といった壁にぶつかることが少なくありません。これは東広島も例外ではありません。
なぜ、農地の売却はこれほど難しいのでしょうか?
それは、農地が単なる個人の資産ではなく、「国の食料生産基盤(公共財)」としての性格を持っているからなのです。そのため、一般的な不動産取引とは全く異なる「農地法」という厳しいルールが存在します。
本記事では、農地売却を成功させるために不可欠な「市場の二重構造(農地のまま売る vs 転用して売る)」を軸に、最新の法改正情報、相場の仕組み、そして農協(JA)と不動産会社の賢い使い分け方まで、その全体像を徹底解説します。

1. なぜ農地は自由に売れないのか?「公共財」としての制約
まず、大前提として踏まえておくべきことは、農地法による強力な規制があります。農地の権利移動(売買)は、日本国憲法第29条が保障する財産権の行使に対して、公益目的による強力な制約が課されています。
つまり、「私の土地だから誰に売ってもいい」という理屈が通用しません。農地法で縛られているからですね。これは、無秩序な開発によって優良な農地が失われることを防ぎ、食料自給率を維持するためです。なかなか、厳しいですね。
売却を左右する2つのルート
農地売却をするためには、大きく分けて2つのルートが存在します。この違いを理解することが第一歩です。
- 農地を「農地」として売る(耕作目的)そのまま売る。
- 買い手:農家、農業生産法人
- 根拠法:農地法第3条
- 特徴:農地を農地のまま維持するため、買い手が限定される。価格は低め。
- 農地を「宅地など」に変えて売る(転用目的)宅地などにする目的で売る。
- 買い手:一般個人、住宅メーカー、ディベロッパー
- 根拠法:農地法第5条
- 特徴:買い手の幅が広がる。立地が良ければ高値がつくが、転用許可のハードルが高い。

2. 【最新情報】農地法改正で「売りやすさ」はどう変わった?
「農地として売りたいけれど、買い手である農家が見つからない」という声に応え、国も規制緩和を進めています。特筆すべきは、令和5年(2023年)4月1日の農地法改正です。
「下限面積要件」の撤廃
これまで、農地を取得するには「原則5反(約5,000㎡)以上の経営面積が必要」という下限面積要件がありました。これが新規就農や小規模農業への参入障壁となっていたため、改正により撤廃されました。東広島市での規制は5反(約5,000㎡)から3反(約3,000㎡)と下限面積が下がり、現在令和7年の時点では解除されています。
これにより、家庭菜園規模で農業を始めたい個人や、小規模な半農半Xを目指す人たちも、法的には農地の買い手候補になり得ることになります。
※ただし、「農地のすべてを効率的に利用すること」「常時従事すること」などの要件は残っているため、誰でも簡単に買えるわけではありません。購入するときの審査みたいなものがあり、住居より遠い、誰がいつ何をつくるのか、書類に書いて提出する必要があります。
詳細は「【手続き編】農地法改正と売却ルールの詳細」で解説します
3. 農協(JA)と不動産会社、どちらに相談すべきか?
「農地といえばJA」というイメージがありますが、必ずしもJAだけが正解ではありません。下記の表の役割分担を見てみましょう。
| 相談先 | 得意な領域(メリット) | 向いているケース |
| 農協(JA) | 地域農業のハブ機能 地域の農家や担い手の情報を網羅しており、耕作目的でのマッチングに強い。営農指導もセットで行える。 | ・「農地のまま」売却したい ・近隣の農家に引き継いでほしい ・広くて条件の良い優良農地 |
| 不動産会社 | 転用・開発のノウハウ 農地法5条(転用)の手続きや、宅地造成の見積もり、一般市場への広告・販売力がある。 | ・「宅地」にして売りたい ・市街化区域内にある農地 ・家を建てられる場所にある農地 |
結論:
- 「農地として残したい」なら、まずは地元の農業委員会やJAへ相談。
- 「宅地などに転用できるか知りたい」なら、農地扱いに慣れた不動産会社へ相談。不動産会社でも農地のまま販売活動は可能です。

4. 農地の売却価格はどのように決まるのか?
農地の価格は、前述した「2つのルート」のどちらに乗るかで、天と地ほどの差が出ます。これを市場の二重構造と呼びます。
(1) 純農地としての価格(非常に安い)
農業専用地として売買される場合、価格は「農業収益性」に基づいて決まります。米や野菜を作って得られる利益から逆算されるため、宅地のような坪単価にはなりません。
- 相場イメージ: 10アール(1反、約991㎡)あたり数万〜数十万円程度で相場というものが正直なく、場所によって価格がことなります。東広島市が発行している評価額を参考にして価格を決めることもあります。
(2) 転用期待地としての価格(比較的高い)
「将来的に宅地にできる可能性がある」土地の場合、宅地価格から「造成費用(農地を宅地にする工事費)」を差し引いた価格が基準になります。
- 計算式: 宅地としての相場価格 - 造成工事費・手続き費用 = 農地の売却価格
注意点:
売却益が出た場合、譲渡所得税がかかります。また、相続税の納税猶予を受けている農地を売却すると、猶予されていた税金+利子税を一括で支払う必要があるため、手残りがマイナスになるリスクもあります。

5. 売れない場合の「最終手段」
すべての農地が売れるわけではありません。特に中山間地域や耕作放棄地は、買い手が現れないことも多いです。放置すれば、固定資産税がかかるだけでなく、雑草や害虫による近隣トラブルの原因となり、市町村から是正勧告を受けるリスクもあります(農地法における管理義務)。
売却以外の選択肢:
- 農地中間管理機構(農地バンク): 公的機関に貸し出し、地域の担い手に集積してもらう制度。
- 相続土地国庫帰属制度: 一定の要件を満たし負担金を払えば、国に土地を引き取ってもらえる新制度(2023年開始)。

まとめ:まずは自分の農地の「区分」を知ろう
農地売却は、一般の不動産売却よりも複雑で、専門的な知識が必要です。成功への第一歩は、ご自身の農地が「法的に転用可能なのか?(市場価値が高いのか)」、それとも「農地として守るべき土地なのか?(農業委員会・JA案件なのか)」を正しく把握することです。
まずは、手元にある固定資産税の課税明細書を確認し、最寄りの農業委員会でご自身の農地の区分(農用地区域内かどうか等)を確認することから始めてみましょう。
本サイトでは、農地売却に必要な知識を以下の記事でさらに詳しく解説しています。現状に合わせて、ぜひ参考にしてください。
- [手続き編へ進む] 農地法改正と売却手続きの具体的ステップ
- [相場編へ進む] あなたの農地はいくら?査定のポイントと税金
- [パートナー編へ進む] JA vs 不動産業者 失敗しない相談先の選び方
「自分の農地は売れるのだろうか?」 「農地転用ができる場所なのか知りたい」 「JAと不動産会社、どちらに声をかけるべきかわからない」
農地の売却は、法律や税金が絡むため、個人の判断だけで進めるのはリスクが伴います。まずは専門家の視点で、あなたの農地の「現状」と「可能性」を正しく把握することが大切です。
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